砂漠の中のねこ

息継ぎがしたい

髪を洗った日の話

 

数年ぶりに会う友人とのランチに向けて、前夜に髪を洗った。出産してから毎日髪を洗う気力や時間がなくて、ここ最近は3〜4日に一度の頻度でしか洗わなくなっている。服は、何を着て行こうか。ランチの後に散歩をしようという話になっているから動きやすい格好がいいだろうけど、子を乗せたベビーカーを押すだけのいつもの散歩みたいに、ダル着で行くわけにはいかないよな。数年ぶりに会う相手が上下スウェットで来たらちょっとびっくりしちゃうよな。食事をする予定のお店は、前夜に飲み会がある友人の希望で重すぎないメニューが揃った小洒落た空間のようだし、子は夫が見ててくれるし、身軽なお出かけは久しぶりだから、好きな服を着て、好きなバッグを持って行こうかな。夫は子を半日だろうが1日だろうが見ていられるからあまり心配はしてないけど、一応出かける前にミルクはあげておいた方がいいかな。離乳食をあげる時間帯と私が家を出る時間がかぶりそうだから、それは夫に任せよう。できるだけ子が機嫌の良い状態にしておきたいから、余裕をもって対応できるように早めに起きよう。

 

その友人とは各種SNSで繋がっておらず、ここ数年どんな風に生きてきたのか何も知らない。共通の友人もほとんどいないので、あちらは私が出産したことも知らないだろう。

 

およそ10年前に私が東京へ来たい、東京で働きたいと思ったきっかけになったひとりがその友人だった。その東京で無事に今日まで生き抜いて、夫と出会い結婚し、子供を産み、今後もこの地で生活していこうとしている自分を、私は今でも時々信じられない気持ちで俯瞰する。同郷であり私よりもずっと前から東京で生きてきたその子は、そうした私の人生についてなんとコメントするだろうか。最近のその子自身のことも、聞きたいことが山ほどある。

 

そういうことを考えながら眠りについた。

 

当日の朝起きると、その友人からLINEが届いていた。「起きれる自信がないからリスケしたい」という旨の内容だった。受信時刻は午前3時だった。

 

単純に3時に寝て昼前に起きて出掛ける自信がないのか、お酒を飲みすぎてしまったから起きられない可能性があるのか、起きられたとしても体調が悪いかもしれないからなのか、あるいはそのすべてなのかわからないけど、友人の事情と選択は私を打ちのめした。

 

普段の洗髪サイクルを崩してまで髪を洗ったのに、子を見てもらえるよう夫とも予定を調整したのに、着ていく服も考えたのに、たまには夫以外の大人と会話がしたかったのに、何よりとても、会いたかったのに。起きられないという理由で会えなくなるなんて思わなかった。私が事前にこちらの状況をある程度話していたら、友人の選択は変わったのかもしれない。もしかしたら友人には他にも事情があったかもしれない。本当のところはわからないけど、酷く自分を否定されたようで、自分と会う価値が著しく低いと言われたようで、とても惨めで悲しく寂しかった。

 

会えないことを思うと辛いから、今は会うべきではないのだと思うようにした。会わない方が良かったのだ。もしかしたら二度と会うことはないのかもしれないけれど。子供を産んでいなかったら、こんな風にダメージを喰らったりはしなかったかもしれない。ああ、こうやって関わる人間が変わっていくのだな、と思った。明らかに、もう合わないんだ感覚が。そもそも本当に友人だったのかも怪しいくらいに。